遺伝カウンセリングを通して伝えたいこと 動画

~世界でただ一人あなただけの遺伝情報と向き合うということ~

8月5日(土)16:0016:45 第2会場

私たち一人一人がもつ遺伝情報には個性や健康の重要なヒントが詰まっています。遺伝カウンセリングはがんの遺伝的背景と家族への影響を考えるプロセスです。遺伝情報を知ることは個別化されたがんリスク評価や予防策を見つけられる一方、家族とのつながりをより一層意識します。今回は遺伝カウンセリングの役割や遺伝学的検査の特徴をお話したいと思います。

<当日Zoomにお寄せいただいたご質問に、鈴木美慧 先生にお答えいただきました。本ページ下をご覧ください>

講演者

鈴木 美慧 ( すずき みさと )
聖路加国際病院 遺伝診療センター 認定遺伝カウンセラー / 一般社団法人CancerX 理事

福島県出身。お茶の水女子大学大学院遺伝カウンセリング領域で学び資格取得。公益財団法人がん研有明病院乳腺外科を経て,2016年より現職。 10代より市民と専門家をつなぐ「科学コミュニケーション」活動のラジオ番組制作・MC,医療や生命科学をテーマにした哲学的な思考の場“サイエンスカフェ”の企画を手がける。 2019年より一般社団法人CancerXを立ち上げに関わり,がんに関する社会課題の解決に取り組む。

司会者

松井 亜矢子 ( まつい あやこ )
NPO法人クラヴィスアルクス / 乳がんサバイバー

東京都出身。中央大学卒業。化粧品メーカーや国内・外資広告代理店で、コピーライター・CMプランナーとして勤務していた30代に乳がんに罹患。治療と仕事を両立できず退職した後、フリーランスとなる。同時にNPO法人や一般社団法人、当事者会などで患者支援やがん講演、啓発物の制作など各種活動をスタート。初発から15年目で局所再発し、遺伝性乳がん卵巣がん症候群も発覚。現在も通院中。家族がん・遺族がん経験者でもある。

<当日Zoomにお寄せいただいたご質問に、鈴木美慧 先生にお答えいただきました>

【Q1】
遺伝性腫瘍の可能性がある場合、生命保険の加入するにあたりのアドバイスありますか? 保険業界の対応は何かの変化はありますか?

【A1】
遺伝性腫瘍の可能性がある場合、まずは専門的な遺伝カウンセリングを受けてみて、実際の可能性について理解を深めることが重要です。一般的な「がん家系」という状況と実際に遺伝学的検査を疑うような条件に合致するかどうは遺伝医療の専門家とともに確認する必要があります。
遺伝カウンセリングでは、保険加入に関する具体的なアドバイスは行いませんが、遺伝的な可能性に基づいたライフプランををどうしていくか一緒に考えます。

実際のところ保険加入に関して、遺伝情報の取り扱いには一般的に慎重な姿勢が取られています。現時点で、多くの保険会社は遺伝学的検査結果に基づいて保険料を高くするなどの措置は取っていないとされています(参考:一般社団法人生命保険協会の「会員各社の引受・支払実務における遺伝情報の現在の取扱ついて」)。ただし、業界の方針は変わる可能性がありますし、特に保険販売員や関係者全体が遺伝情報に関する方針と取り組みを正しく理解する、そのために適切な情報提供や教育が必要と感じています。

遺伝性腫瘍がわかったあとでも、保険料に不利な影響が出るとは限りませんが、詳細は具体的な保険プランや保険会社によって異なる場合があります。複数の保険プランを慎重に比較検討すること、そして遺伝学的検査の費用をカバーするようなプランがあるかどうかも調査することは、遺伝性腫瘍の背景がある人にとって有用だと思っています。

【Q2】
初めて遺伝のお話を聞きましたが、わかりやすくお話しいただき、ありがとうございます。
癌患者さんにお子さんがいらっしゃる場合、患者さん本人が検査を受けることでの、お子さんへのメリットデメリットを教えてくださいますでしょうか?

【A2】
親が癌の罹患経験がある場合、発症年齢や家族歴からどのような遺伝性腫瘍が該当するか遺伝医療の専門家と遺伝カウンセリングで相談することをお勧めします。遺伝性腫瘍のなかには、幼少期から発症するような遺伝性腫瘍もあるため、親がその遺伝性腫瘍の背景があるならば子供の時から遺伝学的検査でその子の体質を知り、がんの早期発見に向けた対策が必要にあることもあるからです。
親が遺伝学的検査受けるかどうかの相談においては、いくつかの考慮点が出てきます。

### 考慮点1: がん発症の可能性の認識
親が癌になった原因が遺伝的要因であるとわかれば、子供も同じリスクを持つ可能性を予測できます。また幼少期から発症するような遺伝性腫瘍の場合には、この情報を知ることで、子供自身の健康管理に活かすことができる場合があります。

### 考慮点2: 未来の対策
子どもが幼少期から発症するような遺伝的にがんを発症しやすいことがわかった場合、子供に対しても定期的な健康診断や特定の予防措置を早めに始めることが考えられます。

### 考慮点3: 心の準備とサポート
子供が遺伝的にがんを発症しやすいことがわかったとすれば、その心の準備や必要なサポートを早めに行えます。

一方で、

### 考慮点4: 心理的影響
遺伝学的検査を受けるかどうか、それ自体は検査を受ける本人が内容について理解を深め、選択していけるような支援が必要です。遺伝学的検査を受けるかどうか、また幼少期からがんを羽生する可能性が高いとわかった場合には、子供はその事実によって不安やストレスを感じる可能性があります。そのため小児心理に詳しいスタッフや精神的な支援を出来るようなスタッフとの連携が欠かせません。

### 考慮点5: 社会的影響
癌に罹患する前から、発症する可能性を知っていることで、社会的な不利益を受けうる可能性があります。就学や就労、保険加入、結婚などにおいて遺伝的な情報をもとに差別を受けることもあるかもしれません。

### 考慮点6: 不確実性の受容
遺伝学的検査結果はあくまでも発症の可能性を示すものであり、必ずしも癌の発症をすると確定するものではありません。

遺伝学的検査は、すぐに受ける・受けないと決めきるものではなく、受ける前から多角的な視点から情報を知った先にある次の準備をどうするかを考えながら選んでいくものです。そのうえで遺伝カウンセリングなどで、遺伝医療の専門家らと相談し決めていってもらえるといいと思います。